2005年09月08日

読切り編:県警外事課

 県警外事課長の一山は、呟いた。
「おかしいやないか。何が起きとるんじゃ? もういっぺん説明せい」
「それが課長。奇妙なお経が聞こえてくるそうなのでありますが…」
「それは聞いた。頭を言ってくれ、郁道くん」
「は、つまり果物屋の店先で、であります」
 一山は、眉を寄せる。ただの果物屋でないことは掴んでいた。夜ごと数多くの殻をかぶった霊が現れ、しかもその中には明らかに不法入国したと思われる外国産の霊も含まれているという。だからこそ外事の出番になったのだが…。
「霊を調伏するためじゃろが?」とは言ったものの、もちろんそんなはずはない。「いや、あの冷酷非情な男に、霊を成仏させたろっちゅう善意があるとは思えんな」
「は、しかもであります。昨夜は多数の僧侶が近くで目撃されておりますが…」
「なんじゃと? 僧侶の集団!?」
 背中を冷たい汗が流れる。その時、目の前の電話が鳴った。更に嫌な予感を感じつつ、彼は受話器を上げた。部下にスピーカーをオンにするよう手で示す。
「やあ、南畝くん。口子だが、先日の件の続報を伝えておこうと思ってね」
「こ、これは…。先日の件って、あのフジコTVプロデューサー失踪事件ですか?」
「いや、それはもう埋葬済みだ。この意味は解るね?」
「は、はい」今やシャツの背の色が変わるほど濡れている。「フジコTVって何チャンネルだったか、さっぱり解りませんねぇ」額にも浮かんだ汗を必死でぬぐう。「で、口子さん。何の話でしたっけ?」
「もちろん、例の果物屋の件だ。あれは加藤改の管轄になったよ」
「か、かとうあらためが…」一山は息を呑んだ。なぜカンキー和尚が…。
 確かに尋常の業者ではない。たかだかの色変わりでオカヤドカリの値段を吊り上げる悪辣な手口も野放しにできるものではない。だが、変わった色のものを欲しがる消費者だっている。アジアアロワナやクリスタルレッドシュリンプだって、いや金魚でさえ、ちょっとした色の違いでグレード分けされている昨今だ。カンキー和尚部隊が動くほどのことなのだろうか…。
「その疑問は尤もだ。だがな南畝くん。甲殻亜門の体色とは何だ。カロチノイド系の赤色色素アスタキサンチンに、青や紫といった色の結晶を生ずるプロテインが結合したものだ。その結合の強度や色素の多寡によって様々な見た目の色を呈するわけだが、これは棲息環境や食物による影響を強く受ける現象だ。つまり棲息環境や食物が変われば次の脱皮によって変色する」
「ちょっと待ってください」一山は部下の方を向く。「おい、メモは取らんで良い。どうせにわか仕込みだ」
「聞こえたよ。南畝くん。その通りだが、続けよう。棲息環境や食物による獲得形質が遺伝しないのは知っているな? オカヤドカリにも遺伝的要因で様々な変色が見られるのは当然だが、CRSの様に赤色の強い個体を何世代にもわたって淘汰し、純粋培養し、変色を固定していかないかぎりは、そうそう珍しい色が商売になる訳はない。しかもオカヤドカリの繁殖は個人飼育者レベルではほとんど不可能だ。数千円から数万円の費用を使い、毎日小まめなメンテナンスを行い、数百匹のゾエアを数匹のグラウコトエにするのがやっとだ。しかも、その数匹の中に強く変色遺伝子を受け継いでいる子孫が混じっている可能性となるとゼロに近い。つまり投機的価値は全くない」
「なるほど。高値で落札したもののすぐに変色する可能性が高く、例えちょっとばかり珍しい色であったとしても一代限り…。まさに詐欺ですなぁ」
「そうだ。だが、この程度のセコイ詐欺事件で加藤改が動くはずはない。グラウコトエが繁殖できる大きさに育つまで何年かかると思う? それに気付けばネアンデルタール人以上の知能を持つ生き物なら、恥ずかしすぎて生きてはいられないはずだろ」
「二足歩行を憶えて後は、首を括りたくなるほど恥ずかしいことだという意味ですね?」
「いや南畝くん。アウストラロピテクスは既に二足歩行していた。訂正したまえ」
「すみません。要するに我国にネアンデルタール人が生き残っていては問題があるので、外事の私に話が来たのですが、実はアウストラロピテクスだったのでカンキー和尚部隊の管轄に変わったということですね?」
「ややアウストラロピテクスに失礼な表現だが、当たらずと雖も遠からずと言ったところだな」



【今回の登場人物紹介】
一山 南畝(ひとやまなんぼ)=県警外事課長。
郁道 温(いくどうおん)=一山の部下
口子ボス(ぐちこボス)=二課長。島の上司。

【会話に登場した組織の解説】
加藤改カンキー和尚部隊(かとうあらためカンキーおしょうぶたい)
俗姓加藤、得度後カンキー和尚を名乗る謎の人物に率いられた特殊部隊。かなり情け容赦のない手段を採ることで、その筋では有名らしい。蛇足だが部隊の英文表記は「Team Kanky osho」。
posted by プアマリナ at 19:34| 沖縄 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | デカ長:島 奥作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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