2005年08月22日

外伝:その夜の島奥作(前編)

「こいつぁ…。生き物の玩具扱いなんて生易しい話じゃねぇ…」
 元店員から聞いた情報を頼りに、非番を返上して愛好家の秘密のサロンに潜入した島は、そこで交わされる会話の、あまりのおぞましさに息を呑んだ。「こりゃ愛好なんてもんじゃねぇ。カルト教団だ」
 島が、まず愕然としたのは、自称愛好家たちが決まったように口にする“ジセツ”という暗号のような言葉だった。
「ぼくのヤド太郎なんだけどさ、昨日、ジセッちゃって、脚が一本足りないのは不細工だから、ほかしちゃおうかな」
「そうだよねぇ。次の脱皮まで待ってられないよね。ちゃんと再生するかどうか不安だし…。新しいの買ったら?」
 もとより生き物については、あまり詳しくない島だったが、それにしてもオカヤドカリの脚がそう簡単に取れるような物でないことは、見ただけでも判断がつく。販売店での管理が不適切で、店頭で既に足が取れている(そして50円引きになっている)様なものを除けば、あまりに大きさの違う物を狭い容器で不必要に多数飼育していたり、飼主が自己満足だけのために嫌がるオカヤドカリを無理矢理いじり倒したりしない限りは、脚など簡単に取れる訳はない。
 そもそも“新しいのを買う”とは、一体どこからそのような悪魔の発想が生まれてくるのか。
 島は“人の心”を持っていたがゆえに、不幸だった。この異常カルト集団の中においては…。
 一頻り自切の話で盛り上がった愛好家たち。茫然自失とする島を尻目に、話が小康状態に陥ったと、ホッとするまもなく、彼の左後方から甲高い声が響いた。
「新情報!! あのさ、ヤドたんの体を石鹸で洗ってやるのが、最近の流行りなんだってさ!」
 ついに島は落ちた。目の前が真っ白になり、意識は奈落の底へ落ち込んでいく。このまま闇の中へ吸い込まれていくのかと思う間もなく、体の奥底から真っ赤に焼けた怒りが吹き出し、彼を正気へと引っぱり上げる。
「キサマら! ヤドカリを石鹸で洗浄するダと!?」
 だが、この島の、人間なら当たり前の感情の発露は、この場においては更なる不幸を招き寄せることになる。


【今回の登場人物紹介】
島 奥作(しまおくそく)=デカ長。非番を返上。
サロンに集う自称愛好家たち=外道。クソ野郎。「知らなかった」で済まされるような生易しい者共とは違う輩。ちょっと普通では思いつかない臓腑を抉るような罵倒を浴びせても足りないほどの凶悪な連中。筆者は同じ空気を吸うのもイヤダ。


posted by プアマリナ at 21:42| 沖縄 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | デカ長:島 奥作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。