2005年08月19日

番外編:ある日の島奥作

「おやっさん。ヤドカリ5匹、注文入りました」
「ん? ほな適当に10匹ぐらい見つくろって郵送しとけ」
「じゃけぇ、おやっさん。ご注文は5匹やないですか」
「こんなあアホか。5匹注文した客に5匹送って、1匹でも死んどったらどないなる思うとる。大騒ぎしよるで。10匹ぐらい入れといたったら、2、3匹死んどっても騒がんやろが」
「はぁ、なるほど。さすがはおやっさん」
「ヤドカリみたいなもん、タダ同然で、どんどん沖縄から送ってきよるから、5匹も10匹も変わらん」
 しきりに感心しながら、佃煮のようにひしめく貝の中から適当に10匹ほど掴み、梱包しようとする。中身が入っていようがいまいが、特に気にならなかった。
 と、その背に、怒号が飛んだ。
「ドアホ! いま、こんなあが手にしとうヤツ、よう見てみぃ!」
「え? 普通のヤドカリと違いますの?」
「そのピンク色のヤっちゃ。ちっこいピンクの」
 彼は、今しも梱包しようとした粗末な紙の箱を再び、恐る恐る覗いた。
「…って、おやっさん。こりゃぁどう見ても茶色にしか見えませんで」
「ボケ! そんなもん写真撮ってネットに晒したら、何色にでも見えるんじゃ。ピンクパープル系アーマンとか適当に名前付けて、サクラ使うて値段上げてったら、5千円は固い。そいつは別にしとけ!」


 果物屋の店員だったというこの男の告白に、島は愕然となった。
「おい、そんな外道商売が罷り通ってるのか? 世間では」
「はい。刑事さん。しかもね、お客さんからはサービスが良いって、評判の店だったんですよ」
「とんでもない話だな。一体、世の中どうなってるんだ」
「でもね、刑事さん。外道商売とおっしゃいますが、客だって似たような連中ばかりなんですよ。おやっさ、じゃなかった、店長いつも言ってたんですけどね」
「なんて?」
「こない虫ケラみたいなもん飼うとるヤツは、アホばっかりじゃ。別にヤドカリが生き物やと思うとらんし、ちょっと相談乗るふりして、ガセネタつかましたったら、すーぐなついて来おる。ちょろいもんや。ってね」



【今回の登場人物紹介】
島 奥作(しまおくそく)=デカ長。非番。
彼(この男)=元店員。なぜか果物屋でオカヤドカリを売っていた。


posted by プアマリナ at 18:08| 沖縄 ☁| Comment(1) | TrackBack(0) | デカ長:島 奥作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
サービスが良いって評判のお店では、商品を石鹸で洗って売っているようです。珍しい色の果物だけかもしれませんが。
お得意さんは、日本で一番詳しい専門店さんの教える通り、愛情を込めて粘膜保護の為の脂を落としてあげなければいけませんよ。
Posted by そお風 at 2005年08月22日 01:04
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