2004年12月01日

第四話:禍々しき宿

 雑布が言ったように、参野場ビーチに横たわるホトケは、一糸まとわぬ素っ裸。象牙色の体、関節部分が薄いオレンジ色で、足の中程が紫がかっている。飛び出した目は虚ろに海を眺め、その横顔には望郷の念とも、怨みの表情ともとれそうな複雑な色合いが浮かんでいる。
 果たして、これが自然死を迎えたヤドカリだと言えるのだろうか。
 もう一つ、キャリアのない島の目にも普通のヤドカリと違って見える点がある。足が異常に太い。ひょっとすると水死の兆候なのかもしれないが、ヤドカリの土左衛門など聞いたこともない。水死なら足だけでなく尻尾だって…。
「ン? 待てよ。確か現場からの報告では『尻尾は湾曲、但し貝殻の中にあって確認できず』と言っていなかったか?」
「いえ、自分がそう推察しただけで、本当にそう言ったのかどうかは…」
「いや、言ったはずだ。いずれにせよ尾部は確認できなかったはずなんだ。雑布の野郎、何か隠していやがるな」
 島と矢浪が顔を見合わせているところへ、鑑識の郷安がやってきた。
「ようデカ長。遅いじゃないか。また豚丼でも喰ってたのか」
「おう、ヘッド。今日はサバも食ったぜ。いや、そうじゃなくてな。このホトケさん、ひょっとすると一課長が来た時には殻をかぶっていやしなかったか?」
 郷安は眉をしかめ、遥か昔のことを思い出しでもするように首を捻った。
「うーん。雑布さんが来たときはどうだったかなぁ…」
「頼むよヘッド。何でもいいから思い出してくれ」
「いや、すまん。思い出せねぇな」本当にすまなさそうな顔をする。「俺がホトケの体から貝殻を外したのは、ヤッコさんが来る前だったと思うんだがなぁ」そう言いながら胸のポケットからビニール袋を取り出した。「この貝殻なんだがな。どうにも奇妙だろう」
 それは、凡そ奇妙などという生易しい言葉で表現できるような代物ではなかった。毒々しい赤と緑のエナメル質の塗料でイチゴ模様に塗られ、ネイルアートの様にテラテラ光る、この世の物とは到底思えそうにない禍々しい貝殻だった。
 島は、この瞬間、このヤマが事件であることを確信した。間違いなく性格異常者の犯罪だ。
「よし、ビンゴだ。間違いなく凶悪犯罪だ。この貝殻の線から当るぞ」
「はい」と矢浪が勢い込んだ。「これで一課長を見返してやれますね」
「そうだ、その意気だ。まずはこういう貝殻を平気で売りそうなバラエティショップを当るぞ。お前は大通りのイット八日堂を当れ。俺は駅前の等級バンズだ。阿有も呼べ。ヤツは海岸通りのkeyD蘭堂に行かせるんだ」


【今回の登場人物紹介】
島 奥作(しまおくそく)=デカ長。この物語の主人公。
矢浪 次大(やろうじだい)=島の部下。グッピー飼育歴10年のキャリアを持つ。
郷安ヘッド(ごうあヘッド)=鑑識の班長。手が早い。


posted by プアマリナ at 11:03| 沖縄 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | デカ長:島 奥作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
佳境に入ってきましたなー。
前回からの展開が予想通りなもんで、ちょっと嬉しかったりして(^-^V

ラストは角刈りにレイバンのおぢさんが、ヘリで登場してショットガンぶっぱなす・・ってそんなわけないか(^-^;
Posted by 波風 at 2004年12月02日 22:38
波風さん、デカ長への初めての反応、ありがとうございます(^_^;)
いや、皆さん(ためにする中傷は別だけど)ラストまで読まないと反応しづらいだろうなと思っていましたので、嬉しいです。
実は、第四回までほぼ週刊で書いていますが、別にそう決めているわけではなくて、もっともっと先に書きたいことがあるんですが、時間がないだけでして(;_;)
ま、できるだけ時間を見付けて(あるいは作って)ラストまで行きたいと思います。しばらくお付き合い下さい。

>ラストは角刈りにレイバンのおぢさんが、ヘリで登場してショットガンぶっぱなす

うーん。魅力的なラストですねぇ(^_^;)
実はラストは行きつけの居酒屋で刑事たちがコボす設定なのですが、ショットガンフォーメーションも良いような気がしてきました。
あるいは、仏頂:島奥作で、その展開を考えましょうかねぇ(^_^;)
Posted by プアマリナ at 2004年12月06日 20:33
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