“オカヤドカリは自然界では群れで生活している”、実は、この表現からしてあまりにも欺瞞に満ちたものです。正しくは“オカヤドカリは自然界では群れて生活している”です。
“群れで”生活と言うと、猿の様にリーダーがいて、リーダーの統率の下に家族単位の群れを作り、ある程度の社会秩序を持ちながら暮しているイメージがあります。そして、確かにそういう生き物を単独で(群れから引き離して)飼育すると、寂しくて死んでしまうこともあります。
しかし、オカヤドカリはそうではありません。単に“群れて”いるだけです。生活場所が同じ、天敵から身を守るのに有利、繁殖の際に相方が見付けやすい…。要するに海の中で小魚が群れているのと同じです。
そして、海の中で群れている魚を水槽内に群れで入れると、必ず激しい弱いものイジメが始まり、最後には1匹になってしまうこともある。これは厳然たる事実です。
「え? オカヤドカリはむしろ昆虫に近い? バッタを複数飼育しても喧嘩しない? ギャフン(T*T)」
と言いながら、実は昆虫、それも樹液を主食にしている様なクワガタでも、飼育下で必須栄養素(タンパク質等)が足りなくなれば、手近にいる栄養素の塊、つまり自分の仲間を殺して食べてしまいます。ましてやオカヤドカリは多くの群れている魚と同じく、肉食もする雑食性です。
とはいえ、確かにオカヤドカリは脱皮時を除けば、複数で飼いやすい生き物です。あまりにも多数を同時に飼うのは、知的生命体の常識というレベルで最悪ですが、ある程度の大きさのある飼育ケースなら4、5匹ぐらい同時に飼うことが出来ます。基本的には(単独で縄張りを持たないため)争いを好まない生き物の様ですから。
但し、やはりこれだけはもっと突っ込んでおきましょう。天然下でもオカヤドカリは“群れで”生活してはいません。“群れて”いることはあっても、基本的には単独行動派です。天然下でのオカヤドカリを数年継続して観察している私は、そう断言します。お互いにある程度の距離を保ちながら暮しています。しかも誰が見ても実際に“群れて”いると思える状態になるのは、主に産卵期(つまり捕獲されたり、TV等で紹介されたりしやすい時期)です。
と、ここまで書いてしまうと、「オカヤドカリを虫けら扱いとは許さん!」ってな抗議が(別の方角から)飛んできそうな気もするので(^_^;)、補足しておきます。
天然下でのオカヤドカリは決して群れでいるわけではないですが、産卵期以外にも群れていることがある様です。一匹辺りには余分に大きい餌にありついた時などはもちろんですが、それ以外にもよく解らない理由で群れ集まって打ち騒いだりもするそうです。面白い生き物だといことには異存ありません。
また、飼育下で複数飼育していると、あっちから来たオカヤドカリとこっちから来たオカヤドカリが、ぶつかる一歩手前で止まり触覚を接触させて挨拶しているような行動をとることがあります。見ていて微笑ましい光景です。これも仲良くしているというよりはマーキングに近い行動だと考える方が合理的ですが、無用の争いを避けるためにしている行動ですから、挨拶といえば挨拶ですし、それをもって“オカヤドカリは社会性のある生き物だ”と言えないこともないです…。
虫けらとは違って、同種同士でコミュニケーションを取る生き物であることは間違いないですから(と言うか虫けらでもコミュニケーションは取り合うので)非道な消耗品扱いは、絶対にやめましょう。