2005年08月23日

外伝:その夜の島奥作(後編)

 さすがの島も、身の危険を感じる。「ダメだ。こいつら生物的な判断が出来ていねぇ」
 だが、暴徒どもの後方から、別種の反応が起こり、波のようなざわめきが前まで伝わって来た。
「やばいよ。囲まれたみたいだ」
 その言葉を島が理解するより早く、彼には聞きなれた声が会場の外から響いた。
「よーし! クズども動くな! 一斉検挙。かかれ!」
 完全防護服に身を包んだ機動隊員たちが、玉散るジェラルミンの盾を並べ連れ一斉に突入してきた。盾の隙間から繰り出される鋼入り濃紺のグローブが、容赦なく自称愛好家どもの生身の肉体を叩きのめしていく。
「手加減すな! 敵は古今無双のクズどもぞ!」
 隊員たちに意味不明の檄を一つ入れ、阿有刑事が駆け寄ってきた。
「デカ長、危ないところでしたね」
「ああ、追生。絶妙のタイミングだったな」
「ええ、本当に。もうちょっとでも早ければデカ長まで、逮っちまうところでしたよ。しかし」言いながら阿有は、ポケットから出したタバコに火を点けた。「なんで非番のデカ長が、こんなところにいるんすか?」
 阿有の背後の『禁煙』の文字が、ライターの火に浮かび上がった。
「うん。いろいろあってな。ところで追生」島は、阿有の持つタバコを指さした。「ホープは止めたのか?」
「ああ、これですか? 最近ピースに替えたんですよ」

 騒ぎが静まるのを待って、二人は外に出た。外では矢浪刑事が、大勢を前に権利を読み聞かせている。
「いいか、よく聞け。まずお前らには、今から当分は人権はねぇ。もしも登場人物が把握できてねぇやつは、一番右下の“デカ長:島 奥作”というリンクボタンをクリックして、一番下の記事から読んでみろ!」そこで一息つく。「それから、本編が何で進んでねぇのか、疑問に思うやつはいるか? それはな、現実が筆者の予想を遥かに超えて悪くなったからだ。以上だ!」
「でも刑事さん。ぼくたちは何で逮捕されなきゃいけないんです? オカヤドカリ洗う石鹸は、100%天然素材なんですよ」
「それは私から説明してあげよう」
 矢浪の後ろから、パリッとスーツを着こなした紳士が進み出た。インテリ然とした銀縁メガネが、キラリと光る。
「課長」「ボス」「口子さん…」



【今回の登場人物紹介】
島 奥作(しまおくそく)=デカ長。非番を返上。
阿有 追生(あゆついしょう)=若手のピース。島の部下。
矢浪 次大(やろうじだい)=島の部下。キャリア。
口子ボス(ぐちこボス)=二課長。島の上司。本編に登場することはないはず…。
サロンに集う自称愛好家たち=検挙された。


posted by プアマリナ at 18:47| 沖縄 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | デカ長:島 奥作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

外伝:その夜の島奥作(中編)

「なに騒いでるの、オジサン。オジサンのヤドたんは、洗わないの? 清潔が一番でしょ」
 こいつは何を言っているのだ。島には到底理解できないことだった。
「犬や猫ならともかく…」口の中が、からからに乾く。「おい、ヤドカリは毛皮なんて着てねぇよな。あの皮みたいに見えるのは、確か骨だよな。一体何のために洗うんだ?」
「そんなの関係ないって、石鹸で洗ってやったら、奇麗になるもん」
「い、いや、見た目についての見解はともかく、ただでさえナイーブな生き物の体を、ゴシゴシこすっちゃったりしたら拙かねぇか。しかも石鹸使うって…」
 ほとんど泣き声になっていた。ナイーブなどという使い慣れない外来語を使うことからして、既に尋常の精神状態ではない。
 石鹸で洗うとは一体…。水のPhが合わないぐらいで脱皮に失敗して死んでしまう生き物の体に、石鹸を塗りたくるとは何故…。見るからに細かいパーツの組み合わせで出来てる節足動物の体を、人間様のゴツイ指でこねくり回すって何…。ちょっと驚いただけで必死で貝殻の中に引っ込む臆病な生き物を、有無を言わさず引っ張り出して奇麗にする必要性は何処に…。
 客を客とも思わず、商品さえ大事にせず、客の手元に届いて暫く生きていさえすれば成り立つような外道商売を生業とする悪徳業者が、同じく酷薄で無神経な客の目を謀って、瞬間的に商品価値を上げるためだけに、生き物を石鹸で磨くというのなら、解りたくもないが判らぬでもない。ひょっとすると洗った直後だけはヤドカリの外骨格が変色し、オークションの落札価格を引き上げてくれるかもしれない。
 だが、完全に末端消費者である自称愛好家が、自分の飼育している生き物を石鹸で洗う必要が、一体どこにあるというのだろうか。
「だって、石鹸で洗わないと、臭いし汚いでしょ」
「てっ、てめえら! それでも人間か!」
 この人間なら当たり前の、島の叫びは、魑魅魍魎集う黒ミサの席では危険極まりない代物だった。
「あ、オジサン、もしかすると“自分は良いけど他人はダメ”っていうファシストの人?」
 自称愛好家たちの間に、ざわめきが拡がった。
「何だって? 自分は良いけど他人はダメっていうマルキストが紛れ込んでるの?」
 たちまちサロンは修羅場と化す。あちらこちらから意味不明の怒号が飛んだ。
「グリーンピースだ!」「ネオコンだ!」「ナチだ!」
「2ちゃんねラーだ! いや、カプセル詰め反対の会の運動員だ!」
 暴徒と化した自称愛好家たちが、神憑り的に殺気立った目で、島を取り囲んだ。


【今回の登場人物紹介】
島 奥作(しまおくそく)=デカ長。非番を返上。
サロンに集う自称愛好家たち=外道。ケダモノ。彼らを人類と呼べるのなら、筆者は喜んで人類を辞める。
posted by プアマリナ at 12:44| 沖縄 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | デカ長:島 奥作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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